2016年2月7日日曜日

θ 11番ホームの妖精 アクアリウムの人魚たち / 籘真 千歳



一人と一匹と一台の物語、と書くと敵は海賊になってしまいますが、T・Bと義経とアリスの物語が再登場です。
中編2本が収められていますが、後の方は書き下ろしとのことで、結構な内容的に重たいお話になっています。
著者はシステムエンジニアの経験があるそうですが、現代のシステム開発会社の経営者に対する皮肉が仕込まれています。
前にも書いたことあるのですが、スティーブ・ジョブズが「プログラムの開発は人によって最大30倍の差がある」と看破したことを理解できる経営者はいないんですよね。
自分の雇っている者達は等しく優秀であるべきである、という幻想を本気で信じているわけではないでしょうけど、トップ・エンジニアにできることが誰にでもできると思いたがる傾向があるのは間違いないんですよね。
コンピューター・プログラム以外の分野では、そこまで個人差による生産性に差が出る業種というのはないから、余計理解しなくないというのが本当のところなんでしょうけど。
#単純に同じ給料を払ってるんだから、同じだけ仕事しろって思ってるだけなんでしょうけど。

それはさておきとして籐真氏の作品は人工知能の自我というものが大きなテーマになっていて、本作もそれについて近い将来か遠い将来かは判りませんが、この先人類が直面し真に取り組まなければいけない問題を真面目に論じられているんですよね。
たぶん、こういう論を語れるのは、宗教的な指向から、恐らくは日本人だけで、一神教の人達には無理だし、儒教の徒にも無理でしょう。
それ故に革命的な人工知能は日本から生まれるという説も出て来るんでしょうけど。

難しい話を抜きにして、純粋に愉しめる小説としても本作はお薦めです。
籐真氏の文章は、読んでいて愉しいですから。

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