2010年12月1日水曜日

樹環惑星 ダイビング・オパリア / 伊野隆之



第11回日本SF新人賞受賞作です。
氏はSF作家になりたかったけど、ずっとそれを実現することができず、この新人賞が創設されたのを機に本作を書き始め、最後のSF新人賞となった第11回目にやっと書き上げた本作を応募して見事受賞されたのだとか。もう少し書き上げるのが遅れていたら、本作は世に出ることがなかったということらしいです。
ということで、実質的に氏が書き上げた初めての作品でもあるようですが、見事なプロットはとても初めての作品とは思えないできです。
結末の持って行き方も、この手のSF小説でよく使われる神秘的というか神憑ったような終わり方ではなく、極めて現実的な終わり方になっていて、正統的なSFの形を崩していません。
選考者の山田正紀氏が解説で「リアリティの水位がぜんぜん違う」とおっしゃているのですが、正に本作を評するのにぴったりの表現だと思います。
SFなんだからあり得ない話でいいだろう、という考え方は一切せずに、現代の科学理論でも十分に予測可能な範囲の未来描写を貫いていて、遠い未来なのに身近に感じる世界を描いています。
こういうSFは本当に少なくなりましたからね。でも作者は新人賞といっても、そうお若くはなく、日本のSF界が最高潮だった頃に学生だった年代の方で、こういう作風になるのは納得ができます。

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