2014年4月26日土曜日

時平の桜、菅公の梅 / 奥山景布子



東風吹かば匂いおこせよ梅の花 主なしとて春を忘するな

菅原道真公が太宰府へ流されることになったときに詠まれたという名句ですね。
家の近所に、その菅公が太宰府へ行く途中に休憩をしたという由来のある神社があります。
それ故に道真公には、子供の頃から何となく親しみめいた感情を持っているのですが、詳しい話を読んだことはありませんでした。
歴史の授業と小学生の時に読んだ「漫画日本の歴史」くらいしか知識がなかったのです。
なので、本書を店頭で見掛けたときは即手に取って買ってしまいました。

菅公と政りごとで争っていたという藤原の時平は、本書では穏やかで思慮深い人物として描かれています。
藤原氏に成り代わろうとする菅原氏との対立、という構図ではなく、菅原氏を表に立てて藤原氏を排除しようとする上皇(宇田天皇)と、藤原氏に頼り続ける天皇(醍醐天皇)の親子対立という構図になっています。
時平は、道真の才と考えを尊重しつつも、旧勢力である藤原一族や源一族の間に挟まれて、調整に苦悩する立場として描かれています。
講壇に語られる姿よりも、本書の方が、たぶん本物の菅公や時平に近いのじゃないかなと言う気はします。

この時代の貴族の勢力争いというのは、かなりややこしくて、現代人に理解しやすく説明するのは難しいことだと思うのですが、奥山氏はそこを非常に読みやすく理解しやすい文章で物語を進めており、この手の小説にありがちな解説臭い箇所が全くなく、自然に物語の世界に溶け込めていけました。

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