2001年5月11日金曜日

【ZEISSコラム】日独CONTAXレンズの違い

京セラRTSに付いての一番多い質問が、「日本製とドイツ製のレンズはどう違うんですか?」という質問ですね。もう本当に嫌になるくらい、繰り返し出てくる質問です。そんなもの、自分で両方買って比べろよ!といい加減言いたくなるくらいなんですが、そう簡単な話じゃないんですねぇ、これが。

巷では、ドイツ製の方がいいように言われてます。一つは単純なドイツ信仰ですね、ドイツで作った物の方が何でもいいという。ドイツの方がいいと言われる要素として、
1-1.加工精度
1-2.組立て精度
1-3.ガラスの違い
1-4.コーティングの違い
が上げられています。
1-1,1-2.とかに関しては、BENZとかPorcheとかLeicaの工作精度なんかが優れていることから来る幻想だと思うんですけど、こういう精度に関しては日本でも充分ドイツに負けないくらいの精度が出せます。要はコストの問題なんですけどね。加工精度のコストというのは、精度を倍にしたらコストも倍かというとそうではなく、乗数でで増えるとか1桁上がるとかというものなので、日本の企業はギリギリまで精度を落としてコストダウンしてるんです。 Zeissが日本で製造委託する際に、コストダウンのために精度も落としたとは思えません。現に日本製とドイツ製のレンズで、操作感が違うという話は一切聞かれませんからね。
1-3.は、ドイツ製はSCHOTTのガラスで日本製はHOYAのガラスだからドイツ製の方がいいんだ、という幻想です。 SCHOTTのガラスがHOYAよりいいというのは、完全な妄想ですけどね(苦笑)。第一、SCHOTTとHOYAは業務提携をしていて、SCHOTTの安いガラスはHOYAが作ってます(笑)。これは欧州でもそうですから、ドイツで作られているHasselやRolleiのレンズも、SCHOTTブランドのHOYA製ガラスで作っているはずです。
1-4.ですが、コーティングの色がドイツ製と日本製で違っているということから来る話ですね。これはどこ製かというよりも、古い物と新しい物で異なっている、という方が正しいようです。コーティング材料やコーティング用の機器は、全てドイツから送られて来ており、Zeissの処方通りにコーティングが施されるので、違いが生ずる余地はありません。これについては、後述します。

ドイツ製がいいと言われる別の理由としては、写真工業のレポートがあります。 Planar T* 1.4/85がドイツ製から日本製に切り替わった時に、写真工業がAEGとMMJを比較テストして、結論の所でテスターが
「私はドイツ製の方が好きだ」
と結論付けたのが、巷では「やっぱりドイツ製の方がいいんだ」と思われて、ドイツ製の中古相場が急騰しました。私がCONTAXを買ったのは、ちょうどその頃で、Planar T* 2/100を購入しようとしたら、中古のAEGの方が新品のMMJより高かったのでMMJを買いましたけどね。まあ今はドイツ製も値段が暴落しているので、あの時AEGを買わなくて正解だったと思います(笑)。
でもですね、その記事をいくら読んでも「ドイツ製の方がいい」とは書かれていないんですよ(苦笑)。「好きだ」とは書いてあるんですが、「ドイツ製はカリッ、日本製はカリッカリッ」という表現で、日本製の方がシャープでコントラスとが高いことが示されています。更に物理データとして波長対分光透過率曲線のグラフが出ているんですが、MMJの方が高い数値になっています。 AEGがピーク値95%なのに対して、MMJがピークで98%と3%も多く、全波長領域でその傾向は変わりません。つまりMMJの曲線はAEGの曲線を、3%分上にシフトした形なのです。
要はその記事は「日本製の方が性能が高い」というレポートなのです。にもかかわらず、テスターが最後に「(物理特性で劣りシャープさが少ない)ドイツ製の方が好み」と書いたために、ドイツ製の方がいいという幻想が生まれたわけです。
記事の内容をちゃんと読めばすぐ判ることなのですが、中古カメラ店が最後の結論部分だけをコピーして赤線を引いて客に見せて、ドイツ製を高値で売りつけていたわけですね(爆)。迷惑な話ですが、商売とはそういうもんでしょうね。

で、先ほどのコーティングの色が違うというのは、途中で改良されて分光透過率が改善されているためだと思われます。このことが、恐らく「ドイツ製はこってりとした油絵のような色、日本製はあっさりとした水彩画のような色」と表される原因になているのではないかと思います。分光透過率が改善された時に、色再現性が変わったわけではないと思います。極単純な話なのですが、同じ露出で撮影すると、分光透過率の高い日本製の方がオーバーに写る、からです。
TTLで撮影すれば関係ないと思うかも知れませんが、こういう比較テストするときは大抵マニュアルで、同じ絞り値・シャッター速度でやりますからね。それにメーカー発表では、絞り優先時のシャッター速度は無段階制御とありますが、デジタル制御である以上無段階というのはありえません。実際に撮影していると、どうも1/2EV単位でしかシャッター速度の制御をしていないのではないかとしか思えませんしね。
で、リバーサルで撮影する時、同じレンズでもオーバーだと色が薄く、アンダーだと色が濃く見えます。つまり、分光透過特性の違いによる露出差を、色の差と勘違いしてるのではないかと思われます。

ドイツ製と日本製、というか「古いタイプ」=AEと「新しいタイプ」=MMで、他に違いがあります。内面反射の処理が違ってて、AEはレンズエレメントの縁の反射防止塗装(所謂「コバ塗り」とか「墨塗り」と言われるもの)が施されていません。 MMは施されています。 (AEでも最近のは施されてると思いますけどね)
これがあるのとないのでは、どうも色が違うような気がします。分光透過特性やカラーコントリビューションを測定する時は、中心部しか光を通さないと思うので、このコバ塗りのあるなしで測定値は影響は受けないと思います。私の持っているコバ塗り有りのMMJ、MMGとなしのAEGでは色が違っていて、AEGは黄色に偏った発色に見えるんです。これがレンズの種類が同じでも、AEとMMでそのような傾向があるので、分光透過特性以外に色が変わる要因があるとしか思えませんでした。
で、先日海外のオークションで安く落札したDistagon T* 1.4/35 AEGが、安いだけあって中が埃だらけだわヘリコイドは草臥れてユルユルだわで、京セラのサービスでオーバーホールしたんですね。そしたらコバ塗りを施されて返って来ました。買ってすぐの撮影では他のAEGと同じように黄色に偏った色だったんですが、OH後では他のMMJと同じニュートラルな発色になったんですね。つまりこのコバ塗りがないと、色は黄色に偏った発色になるようです。
AEでニュートラルな発色が欲しければ、オーバーホールに出せということでしょうね。逆に黄色に偏った、所謂暖色系の発色をそのままにしておきたければ、オーバーホールの時にはコバ塗りをしないように頼む必要があるでしょうね。

後、AEとMMで絞りの形が違うというのがありますが、まあ気にするかどうかだけの違いなので。私は気にしてないですが。
この件に関しては、まだ書きたい事があるんですが、長くなってきたので、またこの次とします。


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