2017年8月30日水曜日

言語学者が語る漢字文明論 / 田中 克彦



よく英語由来のカタカナ単語を持ち出す人がいれば、それに対して「ちゃんと日本語をしゃべれ!」と怒る人もいます。
でもそういう人達のいう日本語とは、やまと言葉ではなく漢語なんですけどね。
元々文字を持たないやまと言葉は、文字として漢字を取り入れた故に、大量の漢語が入り込んでおり、そのためにやまと言葉が破滅の道を辿っているとのお説です。
やまと言葉で済むことを、わざわざ難しい漢語で表現することが、古来から教養の高い人であるという風に信じられてきたからですね。
今でも英語やフランス語やその他の西欧語を操れる人は、周りから尊敬の念で見られるから、外国語を得意げに使うというのは、古代からの日本人の特性なのかも知れません。

にしても、正直な話、それで結局何をどうしろと?というのが読んだ後の感想です。
今の日本語(と北京語/広東語)の漢字熟語は、古来から大陸で使われて来たものは少なく、ほとんどは明治時代に日本人が西欧語の訳語として、大変な苦心をして編み出したものです。
それをやまと言葉で表現し直せるかというと、まず無理なんですよね。
代わりにカタカナで元の英語/仏語/独語を表記するとかしかないです。
でもそうなると却って読み難くなります。
(実際、昔のコンピューターの説明書などは、英単語をカタカナ表記しててにをは付けただけなの代物だったのですが、英語でそのまま読む方が楽なくらいでした)
まあやたら小難しい、云ってる本人もとても分かって云ってるとは思えない漢字熟語も多いですしね。

それはさておき、本書では韓国が漢字を捨てて訓民正音文字だけにしたことを、再三褒めておられます。
でも文字が読めるのと、文章を理解するのは全く別で、朝鮮語も元々漢語の同音異義語が大変多く、訓民正音文字だけでは意味が分からないことが増えているのです。
そのことは、日本語の文章を全部仮名文字だけで書いたらどうなるか、を考えれば分かりますよね?
もちろん氏も、その辺りは重々ご承知で、漢字を完全になくすには同音異義語が多過ぎる問題はちゃんと書かれています。
なので、できるだけやまと言葉で話し書くべきというお説なんでしょうけど。
で、その訓民正音文字が、日本統治下時代は禁止されていたとお書きになっています。
どこでそういう勘違いをなされたのか不明なのですが、こういう間違いをされると他の資料についての説明も、ついつい眉に唾つけたくなってしまうのですよね。

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